■アメリカ在住わが悪友グロース孝夫氏より新著感想到着!

グロース孝夫氏より
<<日本で新著を買ってすぐ読みましたが、その後コメントを
書くのをさぼっておりました。しかし、今般の呆れたギリシャ
の動きを見ていて、「よくまあドイツもどこまでも辛抱強く
自己抑制的だな」との思いから、血が騒ぎました。

奥山メルマガに投稿致しました。
http://melma.com/backnumber_133212_5327927/
=「脱原発」に関するクライン孝子さんの新著
http://takaogross.blogspot.com/

ドイツ政府があらためて脱原発の方向性を打ち出した事が
注目されているが、そこに至る背景や環境といったものが
詳しく説明された書評は日本では意外と少ない。
そんな中で在独 42年になるという
クライン孝子さんの新著
「なぜドツは脱原発、世界は増原発なのか。迷走する日本の原発の謎」

は極めて明解であり、また時期を得たものである。

というのも、現在この脱原発問題のみならず、
ギリシャの財政危機問題がユーロ圏全体の経済危機へと発展するのでは
との危惧される中で、EU全体に於けるドイツの自己抑制的で主導的な役割が
一段とあきらかになってきているからだ。

この著書の中での中核は、
第4章「ドイツの脱原発事情」と
第 7章の「何がドイツを脱原発に踏み切らせたか」の、
この二つの部分にあると思う。

最初の「脱原発事情」の部分では、
何よりもドイツが欧州全体で経済的、科学技術的には圧倒的な地位にあり、
そこからの「自信」が脱原発という新たな方向へと歩ませていると
いう点がまず指摘されている。
実際にその科学的な成果としてもこの著書での資料によると
ドイツでは太陽光、風力、バイオマスの自然エネルギー源の割合は既に
全体の14%(日本は1%)を占めるに至っているのである。

日本人でも実際に欧州に住んでビジネスの経験でもしない限り、
欧州域内での圧倒的なドイツの国力というものは
なかなか実感できないかも知れない。

近年アジアを中心とする新興国が急成長でその存在感を示すまでの
先進国経済は「日米欧」の時代だと言われた。
しかし極論を言えば、これは実際上、「日米独」の時代であったと
言っても過言ではない。
先進国市場で自動車、機械工業、化学工業の分野での供給側の主役は
何と言っても日米独なのであって、
英仏の産業は決してその地位にはない。
また欧州を需要側の市場として捉えても、自動車、家電、高級雑貨に
至るまで統一後のドイツ市場は仏・英・伊とは大きく差をつけての
ダントツの成熟した最重要市場でもあるのだ。

しかし、そのドイツも二度の敗戦を経験することで
戦後は欧州各国、特にフランスには常におおいなる「気配り」をする
という処世術をしっかりと身につけている。
そうした気配りが出来るのもフランスには経済力・技術力では
到底追いつかれないという大いなる自信というものがあるのは
言うまでもない。
その自信があってこそ、フランスが国をあげて原発開発・推進を
する中での、ドイツによる脱原発への真逆の「方向転換」である。
日本でもドイツは原発推進国のフランスから電力の供給を受けているから
「脱原発」政策が取れるのだと言う誤った情報が流されている事が
この本では指摘されている。
実際はドイツからフランスへのエネルギー供給の方がフランスから
ドイツへのそれを上回っているのだ。
まさにドイツの圧倒的な国力を知る者であれば、これまた
充分納得の出来る話だ。

第二の部分の「脱原発に踏み切らせた背景・経緯」こそ、
この著書の中で最も注目すべき点だ。
戦後米国がその主導的な地位にあるロケットと核兵器の近代兵器の
技術はいずれももともとドイツ人が発明・開発したものである。
それが現在では大量殺戮兵器として世界規模で利用されるに至っている
という事への原罪意識の様なものがドイツ人エリート層にあるというのは
充分理解出来る事でもある。
ドイツも日本と同様、核兵器は製造も保有もせず自己抑制的である。

更にこれらの点に私なりに付け加えさせて頂けるとするなら、
ドイツ人の持つ「清潔感」というものが環境保護や脱原発といった
動きの根底にあるのではないかと思う事である。

具体例をニ三挙げれば、日本人駐在員の奥様が近所から窓が汚れている
と注意されるという話を聞くほど、家々の窓は常に磨かれていて
ピカピカである事。
ドイツ人ビジネスマンと長時間の会議でもしようとなると、休憩時には
窓を開けて直接外気を取り込むという換気には充分気をつけねばならない
という事。
またドイツでは電子レンジの人体に及ぼす影響が判らないということで
長らく普及していない事。
ドイツの地方を旅行して、どんな安宿でもシワひとつないシーツと
磨かれて清潔なバスルームが用意されている事、などなどだ。

3.11の震災後、福島原発からの放射能漏れの危険性が判るやいなや、
横浜にあるドイツ人学校の生徒が数回に分かれて
4日後の翌週の火曜日までには全員がチャーター便で本国ドイツに帰国、
避難したという事実は我々には驚きであった。
しかし、今から思えば震災後の日本政府首脳の対応が「人災」だと
指摘される中で、実はドイツ政府の迅速かつ周到に準備されてきた
「危機管理」対応が正しいものであったという事が判ってきたのである。

ドイツ人と日本人の共通点、それは勤勉、質素、努力、向上心と
いった「実直さ」というものであろう。
しかし、違う点もある、
それはドイツが欧州大陸の中心にある関係から、
政治的には極めて「したたかである」ことだ。
ドイツはもとより EU と NATOという共同体の一員であり、
周辺諸国とは地続きであり、
また歴史・文化・伝統にも共通するものがある。
それがゆえにそのしたたかさというものが充分醸成されていて、
例えば冷戦中であってもドイツはロシアからの天然ガスの安定供給を
密かに交渉したり、
また東西ドイツの統一に向けては英仏両国からの警戒と牽制を巧みに
かわして、共同体の一員である事を優先させるという政治的に
大なる決断をしているのだ。

日本の政治が混迷する中で、
環境保護にはじまり、
首都機能分散、
更にはこの脱原発問題という問題を通しても、
国のあり方はいかにあるべきかという面で日本がドイツから
学ぶべきものはまだまだ多い。

孝夫>>