■ドイツの脱原発と日本(2)

■「脱原発」独と原発保有国2位仏はお隣同志
■オレのテリトリーをむやみに荒らすな
■これまで独は仏に気兼ねしすぎたからなあ
■鉄の女サッチャーならぬメルケルもお手上げ

さてここで一つ世界における原発所有上位国とその数に関する表をご覧に入れましょう。

1 アメリカ 1 104
2 フランス 59
3 日本 54
4 ロシア 31
5 韓国 20
6 イギリス 19
7 カナダ 18
7 インド 18
9 ドイツ 17
上記の表を見ますと世界で最も多く原発を所有している国はアメリカです。
次はフランス。
そして3位は日本です。


■「脱原発」独と原発保有国2位仏はお隣同志
ここで注目すべきことがあります。
「脱原発」のドイツと原発保有国2位で、エネルギーの約70%が原子力エネルギーで賄っている国フランスがお隣同士だという点です。

第二次世界大戦後、それまで犬猿の仲だったフランスとドイツがいやいやながらも手を結び、欧州を一つにというスローガンで握手し、EUを築き上げました。
ところがこの独仏(サルコジとメルケル)両国、近ごろどうもギクシャクし始めたのです。
理由はドイツの「脱原発」とそうでないフランスの確執です。
元はといえば、日本の福島原発事故がきっかけなのですが・・・

ところで、フランス原子力エネルギー事情ですが、表向きははアレバ社が握っていることになっています。とはいえ、この会社は半官半民というべき性質の、国自ら力を入れる殖産産業で、従って、サルコジ大統領もこの企業の動向となれば、目の色を変えて、口出しし、時には奔走します。

福島原発事故がそうでした。それまで日本など全く眼中になく無視していたはずのサルコジが、突如アレバ社の美人社長を伴って、3月31日来日しました。
表向きはお見舞いだったそうで、菅首相など「雨の日にやって来る友人は本当の友人だ」と痛く感激しています。
私などこの菅首相の発言を聞いたとたん、彼は既にサルコジ術に見事にひっかったと思ったものです。
何しろ彼ですが、当地ドイツから見る限りそのホンネとタテマエは「見え見え」でしたから。
目的は
一はビジネス、
二は情報収集、
三はこの事件で窮地に陥った東電につけこみことと次第によって一部吸収したいという願望です。
(そうした魂胆があるのではないかという憶測ですが、これはサルコジを知るあるジャーナリストから彼ならやりかねないというウラ話を聞いていました)

いち早くそうと察知したアメリカの行動も迅速でした。早速トモダチ作戦を展開し、フランス(=サルコジ)牽制のために、日本の被災地へ大量の海兵隊を送り込み、自衛隊とペアで、デモンストレーションを行なってみせたからです。
(ドイツなどは最初日本ヘルプに積極的でしたが、かの腹に一物ある生臭いウラ事情を知って、こんなことで国際的ドロ試合に巻き込まれて面倒なことになるのはご免と、すたこらさっさと引き揚げてしまいました。
後で放射能を怖がって逃げた「臆病なドイツ人救援隊」と一部マスコミではたたかれましたが、それだけではなく、逃げた理由の一つには実はこう事情もあったのです)。

■オレのテリトリーをむやみに荒らすな
アメリカにすれば、俺のテリトリー=支配下にある日本を勝手にフランスが横取りするなどとんでもないという思い遭ったのではないでしょうか。

事実、フランス側は日本に対しヘルプするといいながら、巧みに東電に接近し、何と4月8日にはちゃっかり「汚水処理」契約を結んでいます。その額たるや一トン当たり20数万円というではありませんか。
このビジネスでうまく契約に漕ぎつけたサルコジです。フランスで開催されたサミットでは、いつになくご機嫌がよく、菅首相をしきりに持ち上げて、「ナオト」呼ばわりをし、ナオトを一番に名指ししナオトの演説を皆に聞かせる演出を行なっています。

こんなサルコジ作戦ですが、見抜けないのは日本のみ。例のサミットではオバマ大統領やキャメロン首相など、心中、苦笑していたようで、メドジェーエフはふふんと鼻をならしベルスコーニはなにやらオバマに素早く耳打ちをしています。
メルケルに至っては、こんなサミットには付き合っていられないと、サミット期間中、なるべく
控えめに目立たないようにしたうえ、サルコジからリビア問題の会食のお誘いを、「うちは国連安保で棄権しましたので」と断り、その上腹に据えかねたのか、少しばかりサミットのあり方を皮肉っぽく批判したあと、(最後まで残らず)さっさと切り上げ本国へ帰ってきてしまいました。

とりわけリビア問題では私などメルケルの気持ちがよーく理解できたものです。

何しろリビア問題が発生する前、かくもガダフイに取り入って、彼をパリに招待したときは、何とエリーゼ宮にガダフイご自慢のテントまで張らせて歓待していたサルコジ!
ガダフイ不利と見るや、くるりと180度、踵をかえしイギリスとペアで、空爆作戦に突入しガダフイ生け捕りへと方向を転換してしまったのですから。

早々例のドイツの国連安保理での棄権事件ですが、これには理由があります。ドイツはこの空爆で民間人が犠牲になるのを憂慮したためで、「もしドイツが誤爆し民間人が犠牲になろうものなら、いかなる癖くせをつけられるか」。
アメリカはもとよりフランスやイギリスなら許されることがことドイツだと、そうはいかない。
それなのにフランスは、(いや他のNATO加盟国も同様)今度はドイツが仲間入りしないと、ドイツを非難する。、

というわけで近ごろ独仏の関係がどうもギクシャクし始めた。
国内では、せっかくアデナウアー+ドゴール時代から築き上げてきた独仏関係をメルケルが壊しかけているにというのです。
ドイツの古老政治家にしてみれば独仏関係がうまくゆかないと欧州がばらばらになってしまう。だからこそアデナウアーとドゴールが握手して、EUなるものを築き上げた。それなのに、どうもメルケルにその気がないようだと非難します。

■これまで独は仏に気兼ねしすぎたからなあ
一方ではこれまでのドイツは余りにもフランスに気兼ねしすぎた。今後はドイツとしても遠慮しないで正々堂々とフランスと対峙すべきで言うべきことは言うべきだと言うドイツ人もいます。。
「脱原発」はその一つであり、当然のことで、これで独仏関係がギクシャクして何が悪い!

一方、原発推進の先導役にあるフランスにしてみれば、ドイツの今回のやり方には不満たらたら。何となく気に食わないし「腹の虫が収まらない」
要するに「オレの鼻先で脱原発とは何事か」という怒りがフランス、おっと違った! サルコジにはあるようなのです。

そういえば、6月6日、ドイツはいよいよ「脱原発」実現化の一歩を踏み出しました。
この決定にカチンと来たのはいうまでもなくフランスです。
早速仏ベソン・エネルギー大臣は、この日、
「ドイツはEUクラブのリーダー格にもかかわらず、EUの他の国に何の相談もしないで勝手に『脱原発』路線へと走り出した。」とEU委員会に抗議し、同時に文書を提出しています。
フランス側の怒りが収まらないのは、この国のエネルギーは原子力中心で、これを揺るぎない国策としていることです。
にもかかわらず、電力不足という状況にあり、エネルギー消費の最も多い時期になると電力不足補填のためにドイツから輸入しているありさまです。
ちなみに昨年のフランスのドイツからのエネルギー輸入は16.1(テラワット/時間)。フランスからドイツへは9.4(テラワット/時間)輸出しています。
欧州諸国ではエネルギーは原子力エネルギーを初め
エネルギーの売買ビジネスは自由に行なわれているからで、そういう意味では日本で多くの識者が揶揄して持ち出す「ドイツはフランスから電力を輸入しているくせに『脱原発』などとごまかしている」という説は根も歯もない風評であること。なぜこのような風評が日本でまことしやかに流布されるのか、こうした独仏のエネルギー政策を巡る昨今の不仲をみますと、何となく、その出所はどこか、想像できるような気がしないではありません。。

それはさておき、フランス=サルコジやアレバの社長のドイツに対する怒りはこれだけではないのです。
フランスの原発推進政策は明確です、
昔も今も積極的に原子力エネルギー政策を推し進め、国内のエネルギーの大半を原発に依存するだけでなく、余ったエネルギーを輸出ビジネスに回すばかりか、原発技術ノウハウ全て、今後国内で建設しようと計画を立てている国々に売りつけようと虎視眈々として狙っています。
そのフランスにしてみれば、隣国のドイツの『脱原発」の動きは、フランスのビジネスに横槍を入れる不届き者で目障りで仕方がないのです。

■鉄の女サッチャーならぬメルケルもお手上げ
何よりも目下サルコジにとって、気がかりなのは、来年の大統領選挙で、フランス国民の原発に対する
姿勢がドイツのこの動きにに触発され、ライバル党を勢いずけることで選挙に負けることです。
つい最近のフランスにおけるアンケートによりますと、原発に関して今後25年から30年の間に廃止すべきとする国民が62%、そんなに時間を掛けないで出来るだけ早く廃止すべきが15%にのぼっており、これがサルコジ再選の妨げになる。いや悪くすれば、命取りになるかもしれない、とさえいわれています。

そうしたフランスの動きをドイツは知らないのではない。百も承知しています。
けれども、スリーマイル、チェルノブイル、そして
つい最近は福島原発事故が起こったことで、ドイツではいっそう「脱原発」の動きが加速してしまいました。
1980年代から環境問題、とりわけ「脱原発」を主要テーマに急速に勢力を伸ばしてきた「緑の党」の右肩上がりの伸びは、あれよあれよというまもなく、今や旧来の保守党や革新党をも凌駕するほどです。
この流れをいかんせん、サッチャーならぬ鉄の女メルケルであろうとドイツでは止めることが出来ないのです。