■本の紹介専門新聞 [週刊読書人}に拙著書評掲載

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({読書人は定評ある本のスペシャリストが創る専門誌。
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を切り取ります。
『週刊読書人Online』では、毎週金曜日に発行する『週刊読書人』
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クライン孝子著
『なぜドイツは脱原発、世界は増原発なのか。迷走する日本の原発の謎』
http://www.junkudo.co.jp/detail.jsp?ID=0112946802
が海竜社から刊行された。
四六判221項・1375円。
著者はドイツ滞在40年余に及ぶ国際ジャーナリストで、
独自の取材原をもとに海外からの視点で日本を見つめる鋭い提言を
行ってきた。

◆本書は今年3月11日に起こった東日本大震災による原発事故への
日本政府の対処の仕方がまずく、世界から取り残された実態の
告発から始まり、
唯一の被爆国日本の原発事故を誰も止められなかった事情や
福島原発事故を引き起こした悪しき日本の構造を明かしている。
そして、
ドイツの「原発政策」事情や世界での原発推進の空気、
ドイツの「脱原発」を踏み切らせたものが何であり、
日本は原発とどう向き合うべきか
を論じているが、
◆取材に基くデータが豊富に紹介され、緻密な考察が行われている。

著者によると、
日本の原発は、徹底的に日本の軟弱化を進めたアメリカの原発ビジネス
の延長線上にあり、日本の経済発展と共に原発への依存度が高まり、
◆原発利権と原発推進派による隠ぺい工作や補助金へのたかり体質
などが原発事故の責任追及をうやむやにしていったという。
そのため、著者は原発推進に関わった地方出身の議員や補助金を
当てにした原発周辺住民の責任も問い、
官と東電が「原子力政策優先」の法の作成や通達を出す体制
を築いた日本的構造が福島原発事故を引き起こした
と指摘している。

◆そして、今年6月6日、2022年までに、
「全ての原子力発電所を廃止する」
一連の法案をドイツ政府が閣議で了承し、風力発電などの大幅拡充を
目指すことになった背景も明かす。
それは自分の背丈にあった暮らしをしつつ、
自らの信念にそった道をコツコツと地道に歩き続けるという哲学を
ドイツ人が持っているためで、
核分裂を発見し核の安易な使用に反対してきたオットー・ハーン、
彼の主張に共鳴した
ヴェルナー・ハイゼンベルクや
カール・F・フォン・ヴァイツゼッカーなど
◆ドイツの科学者の「遺言」などが「脱原発」につながった
論じている。

こうした事情を伝えられるのは、
著者が長い間、ドイツに暮らしているからだ。

◆しかし、一方でアメリカの原発政策に変化はなく、
中国や産油国が原発と共存することを決めた事実や
産業革命以来続くエネルギー獲得競争の実態なども紹介している。

そして、最終章では、
原子力エネルギーこそが唯一、どこの国からも干渉されることなく
手にすることができたエネルギーだった日本は、
◆原発の即時停止は性急過ぎるので、
今ある原発を稼働しつつ古くなった原発は廃炉にして
新規に原発を建設することをやめ、重点的に再生エネルギーなど
のクリーンなエネルギーへと舵を取り、移行していくことを
提唱している。

◆巻頭に図表で原発と放射線の基礎知識を示し、
多くの事実を伝えている本書は、
原発をめぐる知識をわかりやすく教え、
日本のすすむべき道を説得力のある筆致で示唆している>>